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大阪地方裁判所 昭和50年(わ)372号 判決

一、本店所在地

大阪市東成区中道一丁目一二番二二号

商号

株式会社二上鉄工所

代表者

二上昌夫

二、本籍

大阪市天王寺区宰相山町一五一番地

住所

東大阪市昭和町一七番六号

職業

株式会社二上鉄工所代表取締役

氏名

二上昌夫

生年月日

昭和四年一月一六日

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤本徹出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社二上鉄工所を罰金一、四〇〇万円に、被告人二上昌夫を懲役一〇月に、それぞれ処する。

被告人二上昌夫に対し、この裁判確定の日から二年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社二上鉄工所(以下単に被告会社という)は、大阪市東成区中道一丁目一二番二二号に本店をおき、紙器紙工機械の製造並びに販売業を営むもの、被告人二上昌夫は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人二上昌夫は同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一、被告会社の昭和四六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、その所得金額が八四、三六九、三〇六円で、これに対する法人税額が三〇、一四八、三〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上の一部を除外し、これによつて得た資金を架空名義の定期預金等にするほか、決算に際して売上の一部を翌期に繰延べするなどの行為により、右所得金額中四五、〇九〇、四〇三円を秘匿したうえ、同四七年二月二九日大阪市東成区東小橋二丁目一番七号所在東成税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三九、二七八、九〇三円で、これに対する法人税額が一三、五八一、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一六、五六六、九〇〇円を免れ、

第二、被告会社の同四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、その所得金額が七一、八六三、四九〇円で、これに対する法人税額が二五、四四〇、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中三三、一三九、七四四円を秘匿したうえ、同四八年二月二八日前記東成税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三八、七二三、七四六円で、これに対する法人税額が一三、二六五、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一二、一七五、四〇〇円を免れ、

第三、被告の同四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、その所得金が一二一、二六九、五六一円で、これに対する法人税額が四三、七〇六、二〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により右所得金額中七四、〇一一、七六九円を秘匿したうえ、同四九年二月二八日前記東成税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四七、二五七、七九二円で、これに対する法人税額が一六、五一〇、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税二七、一九五、五〇〇円を免れ、たものである。

(証拠標目)

一、収税官史小谷道雄作成の脱税額計算書三通

一、登記官作成の会社登記簿謄本

一、検察事務官谷後寛作成の電話聴取書

一、東成税務署長倉野行夫作成の証明書三通

一、収税官吏作成の現金預金有価証券等現在高確認書二通

一、左記の者作成の各確認書

小野昭三(二通)、堀義昭、田淵潔、中村守、亀井成和(二通)、栗屋敏男(二通)、広瀬覚(二通)、井頭恒夫(二通)、横田征也、辰巳正英、阿部由之、植松義光、井口清、中野貴志(二通)、浜禎一、岡田博司、杉本栄智、三井康義、江端極造、奥村淳、中保康生、上村甲子男、上山康彦、原博、内野要、横溝華好、服部好美、山根正勝(二通)、東海林静男、津川千寿子、柳原和興、岩谷新三、竹之内幸太郎、小池菊一、粳問一雄、福井宏次、宮本龍三、小笠原吉郎、柳泰三、

一、左記の者作成の各照会回答書

近木義明、松原信弘、高橋敏彦、三和銀行萩之茶屋支店、山中和夫、高橋秀夫、坂口幸男、堀越恒司、平尾貴彦、讃岐孝之、中谷良宏、(三通)、井垣勝之、杉本英智、上山康彦、本多秀光、長井正広、南出忠澄、若林勝、後英治、新家喜代重(二通)、堀江弘毅、大曾根俊雄、西脇照美、アマテイ株式会社、沢村嘉一、浅井兼一、谷口武雄、黒田障之助、十合覚一、加藤義男、宮本健三、榎本博子、山本恵美子、金沢つね子、飯田高久、久光薫、佐上満子、宮崎修司、高橋和子、鎌田政吉、安田清子、有限会社駒場鉄工所、近藤二郎、上沢清志、松本洋賢、鷹川学、福井宏安、渡辺純男、玉井節子、金子辰已、野口芳男、高津俊太郎、黒田耕介、田中稔、斉藤信男、石塚勝、藤森辰男

一、左記の者作成の各供述書

金子利臣、伊藤徹、藤山叶、井口清、徳永裕 (二通)、益江守、上甲敏寛、犬丸裕勝、鈴木功一(二通)

一、左記の者に対する収税官吏作成の各質問てん末書

森田淳助(二通)、金井俊博、宮本龍三(四通)、金井セツ子、足立圭介、寺田昇(三通)、福井宏次(二通)、西山巌、江端極造、井口清(二通)、二上貞子(三通)

一、左記の者の検察官に対する各供述調書

森田淳助、金井俊博、宮本龍三(二通)、朝田一也

一、国税査察官作成の調査書一二通

一、左記の押収物件-( )内の数子は押収番号昭和五〇年押第五一一号の枝符号である。-

元帳三冊(1.2.3.)、銀行勘定帳七冊(4.5.6.)、金銭出納帳六冊(7.8.9.)、手形受払帳三冊(10.11.12.)売上帳一五綴(3.17.乃至23.26.)、「売上商品材料」と題する帳簿三綴(14.15.16.)、請求書(箱入り)一二綴(24)、振替伝票一五綴(25)大阪市信用金庫手帳一冊(27)、不動産関係書類一綴(28)、申告書控綴一綴(29)、受払帳七冊(30乃至36)、公正証書一通(37)、送金明細一綴(38)、部品売上帳四綴(39)集金票二綴(40.41.)、不渡手形一綴(42.)、無題ノート二冊(43.44.)、貸付信託収益計算書一綴(45.)、定期預金利息計算書三綴(46.47.48.)、けいぞくワリシヨー組合せ貯蓄計算書一綴(48.)、定期預金明細メモ三枚(49.)、同メモ一綴(50.)、預金メモ一枚(51.)、定期預金利息計算書一枚(52.)、定期預金印鑑届一枚(53.)定期預金お利息計算書等五枚(54.)、印鑑二一〇個入り一函(55.)、同九二個入り一函(56.)、同四個入り一袋(57.)、同六二個入り一袋(59.)、同三個入り一袋(61.)、同四個入り一袋(63.)、領収証一枚(60.)貸付金および預金推移表一綴(62)、ゴム印二個入り一袋(64)、メモ二枚(65.67.)、メモ一綴(66.)、ゴム印一個(68)、普通預金支払請求書一枚(69)

一、森田淳助が作成し、被告人二上昌夫が確認した確認書六通

一、収税官吏作成の被告人二上昌夫に対する質問てん末書七通

一、被告人二上昌夫の検察官に対する供述調書三通

一、被告人二上昌夫の当公判廷における供述

(弁護人の主張に対する判断)

一、売上繰延べ分の犯意について

弁護人は、被告人二上昌夫が被告会社の昭和四六年度における売上げのうち二九、〇二八、〇〇〇円及び昭和四八年度における売上のうち三一、五八〇、〇〇〇円を、いずれもその年度に計上処理せず、翌期の売上として計上処理していることを認めつつ、「これらの売上は、本来法人税法で認められている延払条件付譲渡の場合の処理基準を適用して処理できた性質のものであり、被告人は単にこれによらずして売上繰延べの方法によつたにすぎないもので、翌朝にはきちんと計上しているのであるから、租税回避の意図はなく、したがつてこの分についてはほ脱の犯意を欠く」旨主張する。しかしながら、被告人二上が一部売上繰延べを行なつたのは各期における利益額を調整し、当該年度分の所得を少く計上するためであつたことは、同被告人自身が前掲の検察官に対する供述調書等で認めているところであり、右のような意図でもつて、法人税法上認められている方法によらずして当該年度の税額に減少を来たす処理をした以上、たとえ翌年度に計上する意思であつたとしても、ほ脱の犯意ありとしなければならない。よつて弁護人の右主張は採用できない。

二、個人預金混入の主張について

弁護人は、「検察官が被告会社の犯則所得算出上、仮受金過年度簿外金額として各年度に計上している五、五〇〇万円のうち四、五〇〇万円は、もともと昭和四一年末の時点で被告人二上昌夫個人に属する仮名定期預金信託が四、五〇〇万円存在したことから、これに対応する勘定処理として計上されたものであり、したがつて、右仮受金四、五〇〇万円に対応する預金信託元本四、五〇〇万円は、本件脱税に関係のないものであるから、爾後各年度における右元本に対して生ずる預金利息額は犯則所得とさるべきものではない。ただ右個人の預金信託は被告会社の預金信託に混入しているので、被告人らとしては、これら混入預金に対する利息が被告会社に帰属することは争わないが、犯則所得の計算上は、被告会社の犯則金額に算入すべきでなく、「その他の所得」として処理すべきものである。そこでかかる分の受取利息として、昭和四六年度分二、六四七、三四四円、昭和四七年度分二、六一三、三九三円、昭和四八年度分二、七三三、六〇〇円を本件犯則金額から減額すべきである」旨主張する。

そこで、被告人二上昌夫らによつて行なわれてきた仮名定期預金信託の中に、同被告人個人に属するものが四、五〇〇万円存在したか否かの点について検討するに、この点に関する直接の証拠としては、同被告人の当公判廷における「昭和四一年末現在で、個人に属する預金が四、五〇〇万円位もあつた。それは主として前社長である昭和四三年に亡くなつた父が、生前古くから陶器、刀剣などの骨董品を扱つたり、不動産の売買、株券の取引などを個人としてやつており、それらで儲けた金である。私が株で儲けた分もある。私はこまかなことは分らないが、昭和四一年頃父から、別の仮名預金が六、〇〇〇万円位あるという話を聞いた」旨の供述があるのみであるところ、被告人二上昌夫やその父が、個人的に骨薫品、不動産、株券などの取引を行い、ある程度の利益を得ていたことは事実であろうけれども、その額や保有形態に関する右供述は、他に何ら客観的裏付けを伴わないので、にわかに採用し難いし、他方、前記採用の各証拠によれば、(1)被告会社は、古くから被告人二上昌夫の父二上八郎が個人として経営していた事業全体を昭和二八年八月に法人化したものであるが、法人化したのちも、個人経営時代と変らない家族中心の経営が行なわれ、会社財産と個人財産との区別が確然とはなされず、個人預金から引き出した金を会社の簿外経費に充てたりする場合もあつたこと、(2)被告会社は昭和四一、二年頃にも脱税を図つて国税局の査察を受けていること、したがつてその時点でもし個人に属する仮名預金が存在しておれば、その頃これを被告会社の預金と区別する処置がとられていてしかるべきと思われること、(3)被告会社の売上除外などによつて得た裏金を仮名預金信託にしている分と、被告人らが本件公判において個人に属する仮名預金信託であると主張する分との問に、その区別をなしうる何らの拠りどころもないこと、(4)一方、仮名定期預金信託のほかに、被告人二上昌夫やその家族の実名でなされている各種預金も相当額存在すること、などの事実が認められ、これらの事実を考え併わせると、本件被告会社の犯則所得算出の基礎とされた仮名定期預金信託は、前記被告人の供述にもかかわらず、すべて被告会社の売上除外等によつて得られた金員をもつてなされた被告会社のもの、と推認するのが相当と思われる。なお、弁護人提出の証拠によれば、右仮名定期預金信託の中には昭和四一年以前に預け入れのなされているものが或程度存在することが認められるが、この事実も別段右の推論を動かすものではないと考える。

してみると前記仮名定期預金信託中に個人に属するものが存在することを前提とする弁護人の右主張は、その余の点を検討するまでもなく、採用することができない。

(法令の適用)

判示各所為は、被告会社の関係ではいずれも法人税法一六四条一項、一五九条(七四条一項二号)に、被告人二上昌夫の関係ではいずれも同法一五九条(七四条一項二号)に該当するところ、被告会社の以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、四〇〇万円に処し、被告人二上昌夫については判示各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、同被告人に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 青野平)

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